2013年1月2日水曜日

横山秀夫著「64(ろくよん)」を読んで

横山秀夫氏は、「半落ち」とか「臨場」「クライマーズ・ハイ」などで知られているミステリー作家で、上毛新聞社出身である。
新聞紙上の書評で絶賛されていたので購入してきた。
読み出すと止められないストーリ構成で、655ページを2日半で読み切った。
その為、暮れの掃除は例年になく手抜きをしてしまった。
もっとも、今年は2男夫婦が戻らないのも手抜きした原因ではあるが。

内容は、警察内部の問題とマスコミの横暴さを中心に描かれたもので有る。
24年前に起きた幼児営利誘拐殺人事件を巡って、当時の警察内部の捜査ミスが新たな事件を誘発する過程を、縄張り主義と隠蔽体質に阻まれながら、一人の広報官を通して事件に迫るというものである。
因みに「64」とは事件発生の昭和64年をさし、捜査関係者の間で使われている符牒である。
その読後感の余韻が覚めない30日の午後、BSで放送された「JFK」を見て共通する事に気付いた。
「JFK」はアメリカ大統領ジョンFケネディの暗殺に関するもので、一人の地方検事が政府の調査委員会の出した結論に疑問を持って再調査するものである。
事件の背景、行政規模の大きさ、事件の深刻さは「64」と比較して格段の違いが有るが、後任のジョンソン大統領も関与してCIAと国家ぐるみの陰謀を画策し、証人を次々に暗殺して行く手口には身の毛のよだつ思いがする内容であるが、そこに感じられれるのは国家、組織に関わる権力側に都合の悪い情報は徹底的に隠されるものだと言う事である。
「大本営発表、我帝国陸海軍は、赫々たる戦果を挙げ・・」の陰で同胞は飢餓に苦しみ、海の藻屑と消えていった大東亜戦争然り。

直近の例では、福島原子力発電所の事故後、東電の調査委員会、政府の調査委員会、民間有識者による委員会が組織され、原因の究明や事故後の対処などがいろいろな角度から論議され発表されたが、全く結論が異なっているのはなぜなのか。
そこには企業の論理、政府の国民向け情報操作が複雑に織り込まれているとしか思えない。
本当の事は闇の中に隠され、国民の知る権利などは名目に過ぎない事が想像される。

権力のあるところに情報が集中し、それを取捨選別して都合の悪いものは取り除き流され、マスコミは何ら検証せずに国民に知らせているだけのものに過ぎない。
知る権利だの、情報公開などは、ほんの一片に過ぎない情報を後生大事に有り難っているのでは?と、思わずにいられない年末であった。

「民は由らしむべし,知らしむべからず」の考え方は、古来より未来永劫続くのであろうか。



4 件のコメント:

  1. 新年おめでとう御座います。2013年最初のブログ拝見しました。横山秀夫の作品、映画やTVで見た位ですが、私達庶民の知らない事が沢山有るんだな。と、しみじみ感じています。

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    1. 細井様
      暫くです。
      今年もよろしくお願いします。
      そうなんです。
      我々庶民は知らされないで、ただその日を送っています。
      昔の映画で「悪い奴ほどよく眠る」と言うのを見た記憶が有ります。
      今も、昔も、物事をしっかり見ている人が居る事に気づかされます。

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  2. 明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願い致します。近藤先生の社会派ブログ読ませていただきました。先生の読書力には感服しております。年末、マスコミの報道姿勢や政治家、官僚の行動を問う番組を見ましたが、まさに先生の指摘したことを多くの識者が語っていました。私もマスコミの最近の報道姿勢や、国の国民への対応に疑問を抱いていました。その場限りで、大衆に迎合した無責任な報道や、一貫性のない政治の動きに怒りを覚えました。特にマスコミ対しては、世間の流れに迎合しない、筋のある真に国民の方を向いた報道姿勢の必要性を痛切に感じました。

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    1. 渡邊様
      今年もよろしくお願いします。
      渡邊さんが仰る様な社会派でもなければ、特段正義感が有る訳でもありません。
      ただ、世の中は表裏が微妙に入り組んでいる事だけは確かなことだと思っています。
      知らないことが多すぎるし、また知ったところでどうする事も出来ません。
      小さな1票は小さな1票に過ぎないのか、無力感を感じる昨今です。

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